肩関節とは
肩関節とは、肩甲骨の関節窩と上腕骨頭で構成される関節である。3軸性の球関節であり、骨頭と関節窩の割合が(骨頭:関節窩=3:1)と運動の自由度が高い。肩甲骨関節窩には軟骨性の関節唇があり、これが力学的弱点をカバーする形態を取っている。他にも腱板や靱帯などが関節窩の浅さを補っている。
肩関節の靱帯
肩関節には、烏口上腕靱帯・烏口肩峰靭帯・関節上腕靭帯の計3つの靱帯が存在している。この中でも烏口上腕靱帯は肩関節の運動に関与することも多く、泉水ら(※1)およびPouliartら(※2)によると烏口上腕靱帯の前上部は肩外旋制限に、後下部は内旋を制限すると述べられている。
関節上腕靭帯(glenohumeral ligs.)
関節上腕靱帯(glenohumeral ligs.)は関節包の前部に位置し、3つの肥厚部を持つ。それぞれ、上/中/下に分類されており、肩関節の外転では中/下関節上腕靭帯が、肩関節の外旋では全ての部分が緊張する。Z状に付着していることから別名、Z靱帯と称されることもある。なお、Z状に見えるのは肩前面からであるため、掲載している上記画像では確認できない。
関節上腕靭帯は3つの部分に分かれることから、基本的には略称をligsと複数形で表現する。
烏口上腕靱帯(coracohumeral lig.)
烏口上腕靱帯(coracohumeral lig.)は肩甲骨烏口突起と上腕骨大結節の間に位置する靱帯である。前述しているように、烏口上腕靱帯の前上部は肩外旋制限に、後下部は内旋を制限する作用を有する。関節包と合流して補強しており、上腕骨の下方偏移でも烏口上腕靱帯が緊張する。
烏口肩峰靭帯(coraco-acromial lig.)
烏口肩峰靭帯(coraco-acromial lig.)は肩甲骨の烏口突起と肩峰の間に位置する靱帯である。関節包の上方を覆うように付着しており、烏口肩峰弓(烏口肩峰アーチ)とも呼ばれる。
肩関節の筋肉
肩関節は上面に三角筋・棘上筋・上腕二頭筋の長頭、前面に大胸筋・三角筋・烏口腕筋・上腕二頭筋の短頭・大円筋・肩甲下筋、下面に上腕三頭筋の長頭、後面に三角筋・棘上筋・小円筋が付着している。
肩甲下筋・棘上筋・棘下筋・小円筋は回旋筋腱板(rotator cuff)とよばれ、肩関節の安定化に作用する。
棘上筋(Supraspinatus)
棘上筋は肩峰の下を外側へ走行する筋肉である。基本的に関節包と癒合しており、腱板を形成する。片麻痺で棘上筋の筋緊張が低下すると、骨頭の引き上げ作用が低下するため、下方に亜脱臼しやすくなる。棘上筋が停止している大結節から1cmほど上方の部分は欠血地帯となっており、断裂しやすい。
起始:肩甲骨棘上窩
停止:上腕骨大結節
作用:肩の外転
神経:肩甲上神経
髄節:C5
棘下筋(Infraspinatus)
棘下筋は関節包の後方と癒合しながら外側へ走行する筋である。腱板を構成する筋の1つであり、肩の外旋作用を有する。
起始:肩甲骨棘下窩
停止:上腕骨大結節
作用:肩の外旋
神経:肩甲上神経
髄節:C5~6
小円筋(Teres minor)
小円筋は円柱状の形をしており、他腱板と同様に外側へ走行する筋である。腱板を構成する筋の一つである。
起始:肩甲骨外側縁
停止:上腕骨大結節
作用:肩の外旋
神経:腋窩神経
髄節:C5
肩甲下筋(Subscapularis)
肩甲下筋は羽状筋であり、関節包と癒合しながら肩関節の前面を外側へ走行する。腱板を構成する筋の1つである。
起始:肩甲下窩
停止:上腕骨小結節
作用:肩の内旋・内転
神経:肩甲下神経
髄節:C5~7
補助動作筋として:肩の内転
大円筋(Teres major)
大円筋は上腕三頭筋の外側頭の前方を走行し、外側へ停止する。停止部付近は広背筋の腱と重なっている。
起始:肩甲骨下角
停止:上腕骨小稜結節
作用:肩の伸展・内転・内旋
神経:肩甲下神経
髄節:C5~7
補助動作筋として:肩の水平伸展(水平外転)
広背筋(Latissimus dorsi)
広背筋の上部線維は僧帽筋に覆われており、外側へ走行する。停止部は大円筋と重なっており、180度ねじれた状態で上腕骨に付着する。
起始:下部胸椎/腰椎/仙椎の棘突起・腸骨稜・下部肋骨・肩甲骨下角・胸腰筋膜
停止:上腕骨小結節稜
作用:肩の伸展・内転・内旋
神経:胸背神経
髄節:C6~8
補助動作筋として:肩の内旋・水平伸展(水平外転)
大胸筋(Pectoralis major)
三角筋は鎖骨部・胸肋部・腹部の3つの領域に分類され、上腕二頭筋の前面を走行する。下方から上方に向かって筋束が重なるような扇様の走行が特徴的である(腹部の上に胸肋部、胸肋部の上に鎖骨部が重なる)。
起始:鎖骨・胸骨・第1-6肋軟骨・腹直筋鞘
停止:上腕骨大結節稜
作用:肩の屈曲・内転・内旋
神経:内側/外側胸筋神経
髄節:C5~T1
補助動作筋として:鎖骨部→肩の内転・内旋 胸肋部→肩の内旋
烏口腕筋(Coracobrachialis)
烏口腕筋は上腕二頭筋の短頭と同じ起始部であり、そこから分裂して上腕骨の内側へ走行する。
起始:肩甲骨烏口突起
停止:上腕骨内側面
作用:肩の屈曲・内転
神経:筋皮神経
髄節:C6~7
補助動作筋として:肩の屈曲・内転
三角筋(Deltoid)
三角筋はその名の通り三角形状をしており、肩関節を覆うように走行している。場所によって、前部・中部・後部線維に分類される。肩関節におけるすべての運動において、主動作筋ではなくともいずれかの線維が必ず関与している。
逆の運動作用(屈曲と伸展、内転と外転など)をもつ筋は基本的に存在しないが、三角筋においては屈曲・伸展、内転・外転、内旋・外旋、水平屈曲・水平伸展全ての作用を持つ(※3)。これを"筋の習慣的機能の逆転(reverse of customary function)"という。
起始:鎖骨・肩峰・肩甲棘
停止:上腕骨三角筋粗面
作用:肩の屈曲・伸展・外転
神経:腋窩神経
髄節:C5~6
補助動作筋として:前部線維→内旋 後部線維→外旋
肩関節可動域
日本整形外科学会および日本リハビリテーション医学会が制定している肩関節の関節可動域表示・測定法は以下のようになっている。多職種において共通の理解をするためのものであることから、臨床評価・研究・疾患によっては目的に応じた測定方法を検討するべきである、という認識を忘れないようにしたい。
屈曲(前方挙上)・伸展(後方挙上)
屈曲および伸展の基本軸は肩峰を通る床への垂直線、移動軸は上腕骨である。前腕中間位で測定を実施する。参考可動域は屈曲:180度、伸展:50度である。体幹屈曲・伸展、肩甲帯挙上の代償動作が出現しないように注意する。
外転(側方挙上)・内転
外転および内転の基本軸は肩峰を通る床への垂直線、移動軸は上腕骨である。外転においては90度以降で前腕を回外させる。参考可動域は外転:180度、内転:0度である。内転は別法として肩屈曲20度または45 度かつ立位で測定する方法があり、基本軸・移動軸は同様である。内転別法の参考可動域は75度である。体幹側屈、肩甲帯挙上の代償動作が出現しないように注意する。
外旋・内旋
外旋および内旋の基本軸は肘を通る前額面への垂直線、移動軸は尺骨である。前腕中間位かつ肘屈曲90度の肢位で測定する。参考可動域は外旋:60度、内旋:80度である。肘を体側に付けるよう指示するとともに、肩甲帯屈曲・伸展・挙上・下制の代償動作が出現しないように注意する。
水平外転(水平伸展)・水平内転(水平屈曲)
水平外転および水平内転の基本軸は肘を通る矢状面への垂直線、移動軸は上腕骨である。前腕回内位かつ肩外転90度の肢位で測定する。参考可動域は水平外転:135度、水平内転:30度である。肩甲帯屈曲・伸展の代償動作が出現しないように注意する。
参考
※1:未固定解剖標本を用いた烏口上腕靭帯の伸張肢位の検討 泉水 朝貴ら
https://www.jstage.jst.go.jp/article/cjpt/2008/0/2008_0_C3P3420/_pdf/-char/ja
※2:Variations in the superior capsuloligamentous complex and description of a new ligament Nicole Pouliart, MD, PhDら
https://www.jshoulderelbow.org/article/S1058-2746(07)00389-8/fulltext
※3:主動作筋ではないので作用には記載していない。三角筋におけるreverse of customary functionはあくまでも"筋活動が起こる"という解釈であることに注意したい。
肩関節の整形外科テスト
肩の整形外科テストは以下の記事で紹介している。
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参考【図付き】肩の整形外科的テスト(8種)/腱板損傷・腱板断裂・肩インピンジメント症候群
腱板断裂・損傷の整形外科的テスト 腱板断裂や腱板損傷の整形外科的テストには、フルカンテスト・エンプティカンテスト・リフトオフテスト・ベリープレステスト・ベアハグテストなどがある。棘上筋・肩甲下筋・小円 ...
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肩甲帯の運動学
肩関節の運動と混同されがちな肩甲帯の運動学については以下の記事で詳しく解説している。混ざらないように必ずチェックしておきたい。
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参考【肩甲帯の運動学】肩甲骨の下方回旋に作用する筋はどれか【第53回理学療法士国家試験AM71】
第53回理学療法士国家試験AM71 問題 肩甲骨の下方回旋に作用する筋はどれか。 1.前鋸筋 2.小胸筋 3.小円筋 4.棘上筋 5.鎖骨下筋 解答:2 解説 1.前鋸筋は肩甲骨の上方回旋に作用する ...
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肩甲骨の解剖学
肩甲骨の解剖学は以下の記事で紹介している。
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参考【触診解説】肩甲骨の解剖学と触診①(肩甲棘・肩峰角・肩峰)
触診技術シリーズ概要 日々の治療において必須の能力となるのが触診である。学生の間は論理的思考能力を向上させることが優先課題となるため、触診技術に関してはそこまで重要視されていないケースも散見される。こ ...
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