第53回理学療法士国家試験AM87
問題
関節リウマチについて正しいのはどれか。
1.股関節などの大関節に初発する。
2.間質性肺炎を合併することが多い。
3.罹患関節の症状は非対称性に現れる。
4.半数以上にリウマトイド結節が認められる。
5.血清アルカリフォスファターゼが高値となる。
解答:2
解説
1.関節リウマチの初発は四肢末梢の関節となる。
2.関節リウマチでは、肺の間質に炎症が生じやすくなる。そのため間質性肺炎を合併しやすい。
3.関節リウマチの症状は対称性に現れることが多い。
4.皮下結節(リウマトイド結節)は皮下にでき、基本的には疼痛のないしこりである。関節リウマチにおいては約2割の患者にみられる。
5.関節リウマチにおいて、血清アルカリホスファターゼ(リン酸化合物を分解してエネルギー代謝を担う、骨由来の酵素)値は基本的に変化しない。
関節リウマチの概要
関節リウマチは原因がわかっていない自己免疫性疾患である。進行性であり、関節に炎症が生じると同時に破壊されていく特徴がある。感染やストレスなどにより免疫機能に異常をきたした結果、発症すると考えられている。複数の関節に発生し、左右対称性の関節炎が生じる。好発年齢は30-50歳である。
解説にも記載しているが、初発は四肢末梢の小関節である。男女比は男:女=1:5と女性に多い。疼痛・腫脹・関節可動域の低下などが主訴かつ主症状である。関節破壊は滑膜の炎症から始まり、関節軟骨の破壊・消失が起こる。最終的には強直や病的な脱臼が生じるケースもある。
国家試験で問われる!
- 進行性の自己免疫疾患である
- 複数の関節に、左右対称の関節炎が発生
- 初発は四肢末梢
- 好発は30-50歳、女性に多い
- 滑膜の炎症が起こり、最終的には骨破壊・変形が起こる
関節リウマチにおける関節変形
関節リウマチでは様々な関節変形が生じる。以下には、発生することの多い変形をいくつか紹介する。
紡錘状変形
紡錘状変形は手指に多く、関節がブヨブヨしたように腫脹するのが特徴である。変形性関節症のように固くはならない。
尺側偏位
尺側偏位ではMP関節に滑膜炎が生じ、示指から小指の手指伸筋腱が牽引されることで尺側に偏移する。
母指Z変形
母指Z変形では、母指のIP関節が過伸展・MP関節が屈曲位に変形する。示指から小指にかけて発生する場合はボタン穴変形・スワンネック変形となる。別名、カモノハシ変形とも呼ばれる。
ムチランス変形
ムチランス変形では、リウマチによる骨破壊で手指が短くなる。あくまで骨が短くなっているだけなので、手指を引っ張ると長く伸びるのが特徴である。別名、オペラグラス変形とも呼ばれる。
スワンネック変形
スワンネック変形では、示指から小指のDIP関節が屈曲・PIP関節が過伸展・MP関節が屈曲位に変形する。変形した手指が白鳥の首に似ていることから、この名称がついている。スワンネック変形は母指には生じにくい。
ボタン穴変形
ボタン穴変形では、PIP屈曲・DIP伸展位に手指が変形する。
伸筋腱の中節骨付着部が骨によって突き破られてしまうことが多く、これによってPIP関節の伸展張力がなくなってしまう。すると、PIP関節は屈筋優位の状態となり、本来であればDIP・PIP共に伸展作用を持つ筋の伸展張力がDIP関節に集中することでDIP関節が過伸展となる。
外反母趾
外反母趾では骨の変形によって中足骨・基節骨の間で変形が生じる。母趾側へ突出するように変形するのが特徴である。
槌趾
槌指は足趾の伸筋が断裂してしまうことで屈筋が優位となり、足趾屈曲位に変形する。別名、マレット変形とも呼ばれる。
関節リウマチの進行
ここからは関節リウマチの進行について紹介する。ここでは、大きく分けて6つの段階を解説する。
正常
正常では骨の末端に関節軟骨があり、滑膜が覆うように付着している。
滑膜炎の発生
リウマチの多くは、はじめに滑膜に炎症が生じ、その影響で滑膜肥厚が起こる。
関節軟骨の破壊・パンヌス形成
症状が進行すると、関節軟骨が破壊によって薄くなり、滑膜部にパンヌスが形成される。パンヌスは、滑膜組織が増殖した結果形成された組織であり、軟骨破壊・骨破壊を促進する。
関節軟骨の消失
関節軟骨の破壊が進むと、最終的には消失してしまう。
強直の発生
関節軟骨が消失すると、骨同士が触れてしまうため強直が起こり、さらに滑膜の瘢痕化も併発する。
病的脱臼
最終的には関節包の張力も保たれなくなり、病的な脱臼が生じる。
関節リウマチの分類
国家試験に頻出する関節リウマチの分類には、Steinbrockerの分類がある。ステージ分類(進行に関する分類)と機能障害度分類(ADLに着目した分類)がある。今回はこの2つを紹介する。
Steinbrockerのステージ分類
Steinbrockerのステージ分類は、4つのステージに分類され、X線像や関節変形・筋萎縮・結節・強直の有無が判定のポイントとなる。基本的には、それ以下のステージの内容を含有することを忘れないようにしたい。
例えば、ステージⅢであればⅠ・Ⅱの内容も含まれるため、ステージⅢにある骨破壊の他に、軟骨の破壊も併発しているという判断となる。
ステージ | X線 | 変形 | 強直 | 筋萎縮 | リウマトイド結節 |
Ⅰ | 骨破壊がない | なし | なし | なし | なし |
Ⅱ | 軽度の軟骨破壊 | 関節周囲にあり | あり | ||
Ⅲ | 骨破壊あり | あり | 広範にあり | ||
Ⅳ | 強直あり | あり |
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Steinbrockerの機能障害度分類
Steinbrockerの機能障害度分類は4つのクラスに分類され、普通の仕事・身の回りのこと・実行可能な程度の3つがポイントとなる。
クラス | 基準 |
1 | 不自由なしに普通の仕事ができる。 |
2 | 動作で1箇所以上に苦痛がある。制限があっても普通の活動ならできる。 |
3 | 普通の仕事・身の周りのことはわずかにできるorほぼできない。 |
4 | 寝たきり・座ったきりでほぼ何もできない。 |
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関節リウマチの血液検査
赤沈(赤血球沈降速度)
その名の通り、赤血球が試験管の中を落ちていく速度を測定する検査である。基準値は1時間あたり、男性:10mm以下・女性:20mm以下であり、リウマチ患者では約50mm~100mm/時となる。以下は赤沈の大まかな原理であるが、PT国家試験に出題されたことはないので参考程度に覚えておくとよい。
赤血球は基本的に負の電荷をもっており、それに対して炎症時に増加する免疫グロブリンやフィブリノーゲン・αグロブリンなどは正の電荷をもっている。また、炎症によってこれら正の電荷を持った組織が増えると、赤血球が持っている負の電荷を打ち消すこととなる。
すると負の電荷が弱くなった赤血球は互いに結合しやすい状態となり、相対的な質量が増すため、沈降速度が早まるのである。これによって炎症の有無を判定する検査法が赤血球沈降速度検査(通称:赤沈/血沈)である。
参考資料
赤血球沈降速度~基礎と新機種検討について~
順天堂大学医学部付属浦安病院 臨床検査医学科 狩谷 敦子
http://www.chiringi.or.jp/camt/wp-content/uploads/2015/04/ad15a854bd4cf2c1274a6b9df9b922e2.pdf
CRP(C反応性蛋白)
CRP(C反応性蛋白)とは炎症発生時に肝細胞から放出される物質であり、細菌の凝集に関与する。リウマチではこの数値が高くなることが報告されている。正常値は0.3mg/dL以下であり、リウマチ患者では10mg/dLほどになる。以下はCRPの説明であるが、PT国家試験に出題されたことはないので参考程度に覚えておくとよい。
局所に炎症が発生すると、集結したマクロファージやリンパ球からTNF-αといったサイトカインが放出される(TNF-αは病原体に対して出血性壊死を起こさせる)。これらサイトカインが肝細胞に作用するとCRPが産生されるのである。つまり、CRPが高値であれば炎症が発生していると判断することができ、これが血液検査におけるCPR検査である。赤沈よりも炎症に対する数値変化が早いため、急性炎症の検査所見として用いられることが多い。
参考資料
日本内科学会雑誌第100巻第12号
Ⅲ.肺炎診断の進歩と実際 3.血液検査~CRPの重要性~
関 雅文 朝野 和典
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/100/12/100_3522/_pdf/-char/ja
ALP(アルカリホスファターゼ)
アルカリホスファターゼは主に肝臓・小腸や骨に含まれる酵素である。ATPを分解する際に働き、リウマチ患者においてはALPの数値が上昇することがある。基準値は58-200IU/Lである。
IU/Lとは酵素に対して用いられる単位であり、絶対量ではなく1μmol/Lの基質に対して作用する酵素の量が1IU/Lと表現される。
参考資料
臨床検査に用いられる単位 7.酵素単位
信州大学モジュール教材
アルカリホスファターゼの構造と機能
石田 陽子 小丸 圭一 織田 公光
臨床化学 33:36-44,2004
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscc1971b/33/1/33_36/_pdf/-char/ja
血清アルブミン値
アルブミン値は一般的に栄養障害を判定する際に用いられるが、炎症所見としての活用も行われる。CRPの説明で登場したTNF-αなどの炎症性サイトカインは、アルブミンの血管外移動を促進する効果も併せ持っており、これにより血清中のアルブミン値が低下する。そのため、炎症が発生していると栄養状態にかかわらず血清アルブミン値が低下する。
参考資料
西新潟中央病院 Nutrition Support Team NEWS 第19号
https://nishiniigata.hosp.go.jp/contents/bumon/nut/doc/nstnews19.pdf
白血球・血小板
白血球は免疫細胞の代表であり、白血球のうち大半を好中球が占めている。炎症が発生すると標的となる細菌を攻撃するため、細菌感染で上昇しやすいが、リウマチ患者においても高値となることがある。白血球基準値は5000-8500個/μLである。
炎症が生じると出血などが生じるため、止血するために血小板も増える傾向にある。血小板の正常値は14-34万個/μLである。
参考資料
白血球とCRP / 由岐病院内科 本田 壮一
他疾患との鑑別
リウマチでは関節変形や強直が発生するが、変形性関節症や骨折とは明確に区別して覚える必要がある。以下は変形性股関節症と下肢骨折の問題・解説なので、併せて読んでおきたい。
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