第52回理学療法士国家試験AM69
問題
成人の安静開脚立位で安定しているのはどれか。
1.支持基底面が狭い。
2.重心の位置が高い。
3. 床と足底の接触面の摩擦抵抗が小さい。
4. 上半身と下半身の重心線が一致している。
5.重心線の位置が支持基底面の中心から離れている。
解答:4
解説
1.支持基底面は広いほうが安定している。
2.重心の高さは低いほうが安定している。
3.床との摩擦抵抗は大きい方が安定している。
4.重心線は一致しているほど安定している。
5.重心線の位置は支持基底面の中心にあればあるほど安定している。
安定性に関する問題のポイント
立位・座位に関わらず、ここから紹介する内容はリハビリを行う上での基本的な物理学の知識となる。コントロールの悪い患者に対しては安定性の高い運動から処方し、徐々にレベルを上げていくことが重要となる。リハビリの難易度を設定する上でも必須の知識であり、問題自体のレベルも低いため、確実に得点できるようにしておきたい。
重心の高さ
重心とは体の重さの釣り合いが取れている点のことを意味している。前後左右方向の重心と上下方向の重心があり、前後左右方向の重心は水平面上で、上下方向の重心は前額面もしくは矢状面上で移動する。
重心の高さは低いほうが安定している(=運動のレベルが低い)。重心の位置が高くなればコントロールしづらくなるため、運動のレベルは上がる。
人体における上下方向の重心は第2仙骨のやや前方にあるとされている。これは、足底から計測して男性では身長の約56%・女性は55%の位置である。
また、上下方向の重心位置は成人よりも小児のほうが高い。理由としては、脳の重さが小児と成人では1kgほどしか変わらないのに対し、骨格は数十kg変化することが挙げられる(体重に占める頭蓋の割合が変わるということ)。
重心線
重心線とは、前後左右の重心が通っている点を結んだ線である。例えば、体の一部が右側に寄っている場合、全体の重心線は若干右へと偏位する。重心線は一直線上にあるほうが安定している。重心線と床面がぶつかった点が重心点である。
正常な成人であれば、重心線はいくつかのチェックポイントを通過している。
左右では、後頭隆起→棘突起→殿裂→両膝関節の中心→両内果の中心 を通っている。
前後では、耳垂(後方)→肩峰(=肩関節前方)→大転子(やや後方)→膝蓋骨後方→外果前方 を通っている。
支持基底面の広さ
支持基底面は広いほうが安定している。支持基底面とは、バランスを取るために必要な面積のことである。例えば、両足で立っている状態では2足の足底を囲んだ部分が支持基底面となり、片脚立位では1足のみとなる。
この支持基底面内に重心があれば、その状態をキープすることができ、重心位置が支持基底面から外れればその状態をキープすることができなくなる。片脚立位よりも四つ這いのほうが安定しているのは、支持基底面が広いからである。加えて、前後左右の重心位置が支持基底面の中心に寄っていればいるほど安定している。
質量
質量とは単純に重さと解釈すれば問題ない。想像し易いかもしれないが、質量は大きいほうが安定している。軽いものは倒れやすく、重いもののほうが倒れにくいのと同じである。
摩擦
摩擦とは、基本的に床面と接地面との間に働く摩擦力のことを意味している。摩擦は大きい方が安定している。氷上で運動を行うのと、普通の床上で運動を行うのとでは、前者のほうが難易度が高いのは想像し易いはずだ。
あえて滑るところでリハビリを行う機会はリスク管理上少ないが、この系統の問題では頻出する選択肢なので抑えておきたい。
類似問題に挑戦!
第48回理学療法士国家試験AM73
問題
安静立位姿勢における重心線の通る位置で正しいのはどれか。2つ選べ。
1.耳垂の前方
2.肩関節の前方
3.大転子の前方
4.膝蓋骨の後方
5.外果の後方
解答:2 4
解説
1.耳垂のやや後方を通る。
2.肩峰は肩関節のやや前方である。
3.大転子のやや後方を通る。
4.膝蓋骨の後方を通る。
5.外果の前方を通る。
2パターンの出題形式に対応する
重心位置の前後に関する問題では、耳垂・肩峰のような部位のみならず、「耳垂の後方」・「大転子の前方」のような出題も見受けられる。チェックポイントのみならず、ポイントの前後位置まで問われることがあるので覚えておきたい。チェックポイント自体はそのまま出題されるので、以下の図を覚えておけば簡単に回答できるはずだ。
ただし、膝に関しては「膝蓋骨の後ろ」「膝関節の前」どちらでも正解になるので、勘違いしないように注意したい。
大腿骨・膝関節の詳細な解剖について
今回の内容でも登場している「大腿骨」の解剖については以下の記事を参考するとよい。
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「膝関節」の解剖については以下の記事を参考するとよい。
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参考
人体画像は"Human・Anatomy・Atlas Edition"より(一部編集)